スタートゥインクルプリキュアと反出生主義

女児アニメと反出生主義、一見すると出会うはずもない二つの言葉が出会ったとき、そこにはどのような物語が生まれるのだろうか。昨年より放送が始まった女児アニメ、スター☆トゥインクルプリキュアも最終回まであと数話を残すまでとなった。今作のプリキュアは宇宙を舞台に多感な時期を過ごす中学生の女の子たちの出会いと友情、そして多様性を描いた作品となっている。そのプリキュアが反出生主義を描いていると私の中だけで話題になっているので今回はスター☆トゥインクルプリキュアの概要と反出生主義との関連についてここに記すこととする。

ストーリー

まずはスター☆トゥインクルプリキュアにおける反出生主義を語る前に大まかなストーリーとその世界観について簡単に説明しよう。手始めにスタプリ公式サイトの作品情報を引用する。

わたし、《星奈ほしなひかる》!
宇宙と星座がだ~いすきな中学2年生。

星空を観察しながらノートに星座を描いていたら
とつぜん謎の生物《フワ》がワープしてきたのっ!
それから、空からロケットが落ちてきて、
宇宙人の《ララ》と《プルンス》までやってきた!
…あなたたち、ホンモノの宇宙人!?キラやば~っ☆

地球から遠くとおく離れた《星空界ほしぞらかい》の
中心部にある聖域《スターパレス》では
《12星座のスタープリンセスたち》が
全宇宙の均衡を保っていたらしいのだけど…
あるとき何者かに襲われて、プリンセスたちは
《12本のプリンセススターカラーペン》になって
宇宙に散らばってしまったの!
このままじゃ星が消えて、地球も宇宙も、闇に飲み込まれちゃう…!

『星々の輝きが失われし時、
トゥインクルブックと共に現る戦士プリキュアが再びの輝きを取り戻す』
ララ達は宇宙に古くから伝わる伝説を頼りに
プリンセスが最後に生み出した希望・フワと一緒に
《伝説の戦士・プリキュア》を探していたんだって。

そこへ宇宙の支配を目論むノットレイダーがフワを狙って襲いかかってきて…
「フワを助けたい!」そう強く思った瞬間、《トゥインクルブック》から
《スターカラーペンダント》と《変身スターカラーペン》が現れて、
わたし、プリキュアに変身しちゃった!?

宇宙に散らばったプリンセススターカラーペンを集めて、
スタープリンセス復活の鍵となるフワを育てなきゃ!
よーしっ、地球を飛び出して宇宙へ出発だーっ☆

http://www.toei-anim.co.jp/tv/startwinkle_precure/info/

上記のように主人公、星奈ひかるとその仲間たちがプリキュアとなり宇宙の危機を救うというのが主な流れである。しかしながら本文が主人公の口調そのままでアニメ未視聴の方にはいささか頭に入りにくいと思うので補足を入れることにする。まずこの世界において宇宙を創造したのは12星座(正確には13星座である。理由は後述する)のプリンセス達であった。プリンセス達は宇宙を創造しさらにその維持を司っていたが、ある時宇宙の支配を企む悪の軍団、「ノットレイダー」の奇襲を受ける。プリンセス達の反撃によりノットレイダーの乗っ取りは失敗に終わるも彼女らも無傷ではいられなかった。プリンセス達は人間のお姫様のような姿という実体を失い、それぞれがプリンセススターカラーペンというペンとなり合計12本のペンが宇宙へと放出されてしまったのである。しかしプリンセス達はペンになる直前、自分たちを元の姿に戻してもらうために、その時点ではまだ存在していなかったプリキュアに希望を託した。その際にプリキュアの素質を持つ者に力を与える存在としてフワという妖精を生み出したのである。そしてフワは以前よりプリンセス達に仕えていたプルンスという触手を持つ妖精と共にプリキュア探しの旅に出発したという寸法だ。

物語の展開~プリンセススターカラーペン~(1話~31話)

プリキュア探しの長い長い旅に出発したフワとプルンスは紆余曲折を経て5人(地球人3人、サマーン星人1人、レインボー星人1人)の少女たちにプリキュアの力を授け、彼女らと協力し宇宙に散らばった12本のプリンセススターカラーペンを無事集めることに31話でようやく成功する。ところでスターパレスを襲ったノットレイダーもプリンセススターカラーペンに宿る力を狙っており、31話に至るまですべての回でプリキュアと対峙している。ノットレイダーはダークネストというトップを筆頭にガルオウガ、テンジョウ、カッパード、アイワーン(途中離脱)の4人の幹部とノットレイという戦闘員で構成されており、幹部らはそれぞれ星をブラックホールに飲み込まれたり、同じ星の仲間からのけ者にされたり、異星人に略奪されたりなど暗いバックグラウンドを有している。彼らは自身の持つ戦闘能力の他に、負の感情を抱えている人間や宇宙人などを一時的に支配しコントロールするといった力も有しており毎回プリキュアと熱い戦いを繰り広げていた。

物語の展開~トゥインクルイマジネーション~(32話~45話)

さてノットレイダーとの戦いを征し、すべてのプリンセススターカラーペンを入手することに成功したプリキュアはスターパレスで再び実体を獲得したプリンセス達から新たな指令を受ける。物語はペンの入手とプリンセスの復活で終わりではなかったのだ。プリンセス達曰く、希望の力を真にするため「トゥインクルイマジネーション」を集め、フワを大いなる力に導く必要があるのだという。しかしながらトゥインクルイマジネーションに関する具体的な情報は一切提示されることはなく、再びプリキュア達の模索が始まることとなった。これを機に物語はそれまでのペンを集めるという外向きな展開から自身の内省や精神的成長といった内向きな展開へとシフトしていく。すなわちトゥインクルイマジネーションとは自己と向き合うことで自分だけが発見することのできる新しい自分ないし自分を貫く行動指針なのだ。これはジョハリの窓でいうところの未知の窓やストア哲学でいうところのト・ヘーゲモニコン(指導理性)に当たるといえるだろう。彼女たちプリキュアはそれぞれ自身のトゥインクルイマジネーションを様々な葛藤を経て模索し獲得していくこととなった。

それぞれのトゥインクルイマジネーション

5人のプリキュアたちはユニ、ララ、まどか、えれな、ひかるの順番にそれぞれのトゥインクルイマジネーションを獲得していく。基本的には過去や現在の自分を振り返り、そこでの至らぬ点や改善したい点について自分で気づくないしは他者に気づかされることによって、より進化したこれからの自分、未来の自分を鼓舞する、背中を押すようなアイデンティティないしは行動指針を獲得するというのがトゥインクルイマジネーション獲得の流れである。

・ユニ(キュアコスモ)
自分以外の仲間がすべて石にされてしまったレインボー星出身の少女、ユニは仲間を石に変えた張本人であるアイワーンを許すという隣人愛にも似た崇高な道徳を獲得しトゥインクルイマジネーションを得た。

・ララ(キュアミルキー)
同じく異星人の少女ララは異星人であることがクラスメイト(普段は主人公と共に地球の中学生として生活している)にバレ、さらに様々な誤解によりハブられてしまう。さらにその様子を目撃したカッパードに異星人同士は分かり合えないと精神攻撃を受けるまでに至ったが、地球人と異星人という二項対立を脱し私は私という自己肯定感を獲得し事情を知ったクラスメイトとも再び打ち解けることでこれを得た。

・香久矢まどか(キュアセレーネ)
次に5人の中で一番のしっかり者の先輩(中学3年生)であるまどかは厳格な家庭に育ち常に官僚の父の言うことを聞きそれに従ってきたが、中学卒業と同時に留学を命じられ、その命に従うべきが思い悩んでいた。そんな中、ノットレイダーのダークネストに命じられるがままに生きている幹部、ガルオウガと対峙することで親の言いなりになるだけの自分を脱し自分の未来は自分で決めるという自立心を獲得しこれを得る。

・天宮えれな(キュアソレイユ)
そして同じく3年生のお姉さん、えれなは6人姉弟妹の長女として学校一の笑顔が眩しいカッコいい先輩(美星中の太陽と呼ばれている。ちなみにまどかは美星中の月)として常に笑顔で振るまうことを意識していた。そんな折、忙しく働く母が長女として母の代わりとして頑張りすぎてしまうえれなに申し訳なさを感じ反省していることを知ってしまう。そしてその様子を見ていたテンジョウに「笑顔は仮面に過ぎない」とこれまでの自分を全否定されてしまう。テンジョウの言葉を聞き、一時落ち込んだえれなであったが、持ち前の明るい性格をさらに拡張させ、自分を犠牲にして人を笑顔にするのではなく人の笑顔が自分の笑顔になるという因果を逆転させたより利他的な心を獲得しこれを得た。

・星奈ひかる(キュアスター
そして最後に主人公のひかる(2年生)がトゥインクルイマジネーションを獲得する。彼女は天性の天然な性格と周りを巻き込むカリスマ性で一見すると悩みがないように思われたが、ほかの4人が次々とトゥインクルイマジネーションを見つけ出す中、ひとりだけ置いてけぼりを食らっているように感じていた。そんなとき幼少のひかるに宇宙と星座の興味を持たせた天文台プラネタリウムを所有する空見遼太郎(通称、遼じい)という祖父母の古くからの旧友のアドバイスによって、時間や環境の変化によって人間関係は移ろいゆくものであるが、自分は自分らしくいることが何より自分らしい(トートロジー)ということ、そして他の人もそれぞれ自分らしく輝いていて、そういった個々の輝きが素晴らしいのだというに気づきトゥインクルイマジネーションを見つけることができたのである。

物語の展開~スターの言葉~(46話前半)

プリンセススターカラーペン、トゥインクルイマジネーションを集めたプリキュアとフワそしてプルンスたち一行はスターパレスに赴き、いよいよ宇宙を再び平和にするための儀式を執り行おうとしていた。しかしまたもやノットレイダーが侵攻してきてしまう。ダークネストの力を借りさらに強力になった幹部と戦闘員たちを前に苦戦しているプリキュアだったが宇宙星空連合という国連軍のような部隊の助けも借り、戦況は五分の状態であった。このまま総力戦かと思われた矢先、戦いを止めに入ったのはなんとキュアスターであった。スターは互いに宇宙の覇権を握ろうとするノットレイダーと宇宙星空連合の姿勢に異議を唱え、さらには敵であるノットレイダーに背を向けて立ち、宇宙星空連合に向けて「宇宙にはいろんな人たちがいるんだ。みんなそれぞれ思いや考え方も全然違う。そんな人たちがたくさんたくさんいるんだよ!この宇宙は誰かのものじゃない。みんなの宇宙でしょ!星空連合もノットレイダーもわたしもみんなみんな同じ宇宙に住む宇宙人でしょ!!」と叫びこの戦いの意義を問いだしたのである。これはセレーネにもソレイユにもできないまさにカリスマ故の発言である。

物語の展開~ダークネストの正体~(46話後半)

スターの心からの叫びを聞き、宇宙星空連合もノットレイダーの軍勢もただただ聞き入れるしかない事態となっていたところについにノットレイダーの首領、ダークネストが動き出す。歪んだイマジネーションを吸収し力に変えるという本来の力を解放し戦闘員を自分の力の一部としてしまったのだ。歪んだイマジネーションに支配された彼らは苦しみの限りを味わっているように推測される。苦しむ戦闘員を見て幹部のガルオウガは「われらが同士をなぜ?ダークネット様!」と疑問を投げかける。するとダークネストは「ダークネストか?ふふ、茶番は終いだ」と吐き、ついに正体を現す。なんとダークネストはかつて12星座のプリンセス達と共にスターパレスに暮らしていた13番目のプリンセス、へびつかい座のプリンセスだったのだ。ダークネストの正体がプリンセスだと分かり、混乱するプリキュアだが実はプリンセス達は事の顛末すべて知っていた(後述)。なぜプリンセスがと疑問を呈するスターに対しへびつかい座のプリンセスは「われは奴ら(12星座のプリンセス)とともにこの宇宙を作った。だが忌々しき想像力がはびこるこの宇宙は完全なる失敗作。よってすべて消し去る」と答え、強大な力をもってプリンセス達とフワをスターパレスごと拉致しアジトであるノットレイダーの星へ姿を消した。スターはフワを奪還することを誓い、裏切られたノットレイダーの構成員を含むすべての仲間たちと共に一時避難する。

物語の展開~この宇宙の真実~(47話前半)

宇宙星空連合の母艦に一時集まったプリキュアは星空連合の人々、そして負傷したノットレイダーたちと共闘してダークネストもといへびつかい座のプリンセスを倒すことを誓う。母艦にて怪我を癒し、敵との融和を図りながら彼らはいよいよノットレイダーの星へ向かう。ノットレイダー達の助けを借りながら、へびつかい座のプリンセスと再び対峙したプリキュアトゥインクルイマジネーションを基礎とした必殺技であるサザンクロスショット、レインボースプラッシュを放ちフワを奪還することに成功する。しかし攻撃自体はまったくといっていいほど効いておらず、それどころか衝撃的な発言をへびつかい座のプリンセスは言い放つのである。彼女は「トゥインクルイマジネーションは私たちの力だ。何も知らされていないようだな。教えてやろう。この宇宙の命。すべてに宿るイマジネーション。その力はプリンセスから分け与えられたのだよ」と言い、宇宙創世神話(実話)とフワの真の役割、12星座のプリンセス達の意図について語ったのだった。

スター☆トゥインクルプリキュアの世界において全宇宙の創造主であった13星座のプリンセスのうち12星座はその昔、自身が持つイマジネーションの力(平たくいえば知性)の半分を宇宙に放出しようとした。しかしながらへびつかい座のプリンセスはそのイマジネーションが歪むことを恐れ反対していた。それに対し12星座のプリンセスたちは歪んだイマジネーションは歪んでいないイマジネーション(その究極としてプリキュアのイマジネーションがある)によっていずれ正されるという市場原理を説き、自分たちが分け与えたイマジネーションを得た生物がどうなるか「見てみたい」という欲を正当化した。それでもなおへびつかい座のプリンセスは反対していたが、力に圧倒されスターパレスを追われてしまう。分け与えられたイマジネーションの力はへびつかい座のプリンセスの予想通り、憤り、妬み、悲しみ、といった数多の歪みを宇宙に生みだすこととなった。例えば、水資源が豊富な惑星に住まう者たちの善意(正のイマジネーション)は略奪者の悪意(歪んだイマジネーション)を増長させカッパードに憤りという歪みを宿らせた。また鼻が高いことがアイデンティティであるグーテン星に鼻の低い存在として生まれたテンジョウは妬みや悲しみといった歪みを得た。へびつかい座のプリンセスはこの間に力を蓄え、この忌々しき想像力が蔓延る宇宙を滅ぼすために器を手に入れようとした。その器とはフワのことであり、フワはプリンセスの力(イマジネーション)を入れるための器という真の役割があった。彼女はそのフワを奪うことで自分以外のプリンセスの力を丸ごと手に入れようとしていたのである。12星座のプリンセス達はこうしたフワの真の役割、へびつかい座のプリンセスの意図を把握しながらもプリキュアに対し詳しい説明をせず、自身が引き起こした災いのツケを、「前へと戻すべく浄化する"プリ(pre-)"キュア(cure)の力」を持ったプリキュアたち、そしてプルンス(彼を忘れてはいけない)に負わせていたのである。

物語の展開~この宇宙の真実~(47話後半)

こうしたへびつかい座のプリンセスの暴露とばつの悪い表情をしている12星座プリンセス達に困惑するしかないプリキュアとプルンスであったが、最後の攻撃を仕掛けようとしているへびつかい座のプリンセスを前に12星座のプリンセス達はプリキュア達を煽り立てる。「フワとトゥインクルイマジネーションで儀式を行うのです」「プリキュアとフワで思いを重ね彼女の闇を止めるのです」「止めねば宇宙が消えます」「止めるにはプリンセスの力が必要」「プリンセスの力の半分はフワの中」「のこりの半分は人々に授けたイマジネーション、その結晶こそがトゥインクルイマジネーション」と煽りに煽るのである。これに対しへびつかい座のプリンセスも「ふふ、言っておくが消えるのは我だけではないぞ。その力を使えば器はこのパレスに戻る。存在(フワ)は確実に消える」と動揺させる。共闘しているノットレイダーの仲間たちも疲弊している中、選択を迫られるスターであったが1話から片時も離れずに一緒にいたフワを器とは到底思えるはずもなく、ましてや宇宙の平和のために生贄に捧げることなど選べるはずもなく、先制攻撃を仕掛けたへびつかい座のプリンセスに為す術もなく負けるかと思われた。しかしその時、フワがプリキュア達の壁となり、「大丈夫フワ」「フワがみんなを守るフワ~!!」と叫ぶとプリキュア達の力(プリンセスの力の半分)を強制的に吸収(この瞬間、プリキュア達は元の姿に戻る)した。そして一度プリキュア達の方を振り返り「みんな今までありがとうフワ」と言うとひかるたちやプルンスの静止も聞かずへびつかい座のプリンセスの放った闇に飛んでいき、プリキュアの必殺技であったスタートゥインクルイマジネーションを放ち、消えて(47話終了時点ではへびつかい座のプリンセスと対消滅したような描写がなされている)いったのであった。

スタプリと反出生主義的思想

スター☆トゥインクルプリキュアにおける反出生主義的思想とはへびつかい座のプリンセスの思想である。彼女はイマジネーションの力(想像力ないし知性)を生物に分け与えることそのものを否定した。尤も、彼女が否定した理由はイマジネーションそのものが歪む可能性があるからであり、歪んだイマジネーションによって苦しむかもしれない存在について考慮しているわけでも憂慮しているわけでもない。しかしながらイマジネーションの力を得た生物がすべてではないにしても12星座のプリンセス達の希望通りに想像力を巡らせて素晴らしい世界を作ることも十分に想定することができたにも関わらずイマジネーションを持った生物の存在一切を否定するという点においては反出生主義的な思想であると言えるだろう。たったひとつでもひとりでも苦しむ存在を生み出すかもしれないという可能性を最後まで蔑ろにしないという姿勢はへびつかい座のプリンセスも持ち合わせている価値観といってよいだろう。ただし現実の反出生主義者のように緩やかな人類滅亡ではなくノットレイダーの構成員を自らの意思によって苦痛に晒してまで宇宙の破壊を目指すという点においてはマキャベリズムな性格も有しており、肉屋を襲うヴィーガンあるいは産婦人科を襲うラディカル反出生主義者(そんな反出生主義者は見たことがないが)よろしく急進的な側面が見受けられる。

一方でイマジネーションを獲得した存在が存在していない時点において12星座のプリンセス達が敢えてそれらの存在を生み出すことを決めた理由は「見てみたい」という欲以外の何物でもなかった。逆に言えば敢えて生み出すことに合理的理由が見当たらないからともいえるだろう。こうしたイマジネーションを得た生物がどうなるか見てみたいといった欲や歪みは自然に正されるといった希望的観測に依拠した無責任な姿勢は無自覚な出生主義者そっくりに映る。子供が欲しいという欲、あるいは人生は苦しいかもしれないけど楽しいこともたくさんあるといった希望的観測やたとえ辛く苦しい世の中であっても人類の発展と共に社会は徐々に良くなっていけば良いといった功利主義的な思想などは苦痛を感じるかもしれない存在を生み出すことへの理性的な躊躇を歪ませることにつながるだろう。

スター☆トゥインクルプリキュアは「苦痛を感じる可能性のある意識を持つ存在をその存在の同意なしに生み出すことは道徳的に正しいと言えるのか」という素朴な疑問を改めて浮き彫りにさせてくれたという点において(まだ完結していないが)非常に素晴らしい作品であり無自覚な出生主義者にこそ見てほしい番組である。奇しくも大きいおともだちを除けば既に人間の再生産をしてしまった再生産者らが大人の視聴者の大半を占めてしまうのだが、第二子、第三子の再生産を熟考する機会となれば幸いである。

最後に分析哲学の分野における反出生主義の第一人者、デイヴィッド・ベネターの生殖をめぐる非対称性を引用して終わりとする。

ⅰ)生殖に関する義務の非対称性
悲惨な人生を送るだろう人々を生み出すことを避ける義務はあっても、幸福な人生を送るだろう人々を生み出さなければならない義務はない。

ⅱ)予想される利益の非対称性
子どもを持つ理由として、その子供がそれによって利益を受けるだろうということをあげるのはおかしい。子供をもたない理由としてその子供が苦しむだろうということをあげるのは、同じようにおかしいというわけではない。

ⅲ)回顧的利益の非対称性
苦しんでいる子供を存在させてしまった場合、その子供を存在させてしまったことを後悔すること、そしてその子供のためにそれを後悔することは理に適っている。対照的に、幸せな子供を存在させることができなかった場合は、その子のためにそのできなかったことを後悔することはあり得ない。

ⅳ)遠くで苦しむ人々と存在しない幸せな人々の非対称性
私たちが遠くで苦しんでいる人々のことを悲しく思うのは当然だ。それとは対照的に、無人の惑星や無人島、この地球の他の地域に存在していない幸せな人々のために涙を流す必要はない。


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続編はこちら。
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