新潟女児殺害事件・傍聴(2021/4/30)

新潟女児殺害事件・控訴審第三回公判傍聴

2018年5月に新潟県新潟市で発生した新潟女児殺害事件の控訴審の第三回公判が4月30日、東京高等裁判所にて行われ、この度傍聴にありつくことができたのでここにその詳細を記す。

事件の概要

事件番号:令和2年(う)第41号

罪状:児童買春, 児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反, わいせつ略取, 強制わいせつ致死, 殺人, 死体遺棄, 死体損壊, 電汽車往来危険

事件内容:起訴状によれば小林被告は5日15時20分ごろ、同市西区において運転中の軽自動車を、下校中のAさんの臀部に後ろから衝突させた。転倒したAさんを抱きかかえ軽自動車の後部座席に乗せたのち、その頸部を圧迫して気絶させ、車を発進。15時28分ごろから59分ごろまでの間、同区の通称『なぎさのふれあい広場』駐車場にて、Aさんの下半身に触れ、わいせつ行為に及ぶ。意識を取り戻したAさんの頸部を約5分以上にわたり圧迫して殺害した。その後22時25分ごろ、JR東日本越後線の線路内にAさんの遺体を遺棄。5分後に走行した電車にその遺体を轢過させ、頸部を切断させたとされる¹。

詳しくは各種記事等を参照のこと。

¹ 高橋ユキ「新潟小2女子殺人 小林遼被告のスマホに残るおぞましい検索ワード」『FRIDAY DIGITAL』2019年11月9日
friday.kodansha.co.jp

新潟地方裁判所での一審判決

事件から1年半後の2019年11月8日に新潟地方裁判所にて裁判員裁判による初公判が行われた。検察側は死刑を求刑、弁護側は殺意と生前のわいせつ行為を否定し傷害致死罪を主張した。翌月12月4日に下された判決は無期懲役であった。

控訴審の経過

検察側、被告および弁護側双方が判決を不服として控訴しており2020年9月4日に東京高等裁判所にて控訴審の初公判、翌年の2021年3月1日に第二回公判が行われた。

初公判

検察側は司法解剖を担当した医師の調書から「女児が脱力してから2分以上、首を絞めており、殺意は強固」と強調。量刑は不当で死刑が相当だとした。また、首を絞めた行為が「気絶させるためだった」として殺害の計画性を認めなかった一審判決は事実誤認と主張した。

弁護側は殺意を認定した一審判決に対し、被告が首を絞めたのは「静かにさせるためで殺意はない」と主張。生前のわいせつ行為もなかったとして、殺人罪と強制わいせつ致死罪はいずれも成立しないと反論し、有期刑が妥当とした²。

² 「検察は死刑、弁護側有期刑求める 新潟女児殺害控訴審初公判」『新潟日報』2020年9月24日
www.niigata-nippo.co.jp

第二回公判

一審判決では、女児は連れ去られた際に肋骨(ろっこつ)を骨折させられたり気絶させられたりして弱っていた可能性があるとし、殺害現場で「首を5分以上絞め続けた」とする検察側の主張を退けた。その上で「5分や3分などと認定できず、それより短い可能性がある」と結論付けた。

これに対し、この日の公判では医師が、女児は気絶した後に意識を取り戻していたことなどから「ある程度(体が)元に戻っていた」と指摘。首を絞めて死亡するまでの時間が短くなる理由にはならず「少なくとも3分、4分は首を圧迫されていた」と証言した。一般論として子どもは蘇生しやすいことを踏まえ、絞めている時間はさらに長かった可能性もあるとした。

一方、弁護側は首を絞めた時間が2分間でも意識喪失が起きる可能性があると反論した³。

³ 「少なくとも3分は首を圧迫 新潟女児殺害控訴審 解剖医が証言」『新潟日報』2021年3月1日
www.niigata-nippo.co.jp

控訴審第三回公判

裁判の争点:本裁判の争点は主に2つある。1つ目は検察側は被告の殺意を認定し死刑を求刑している一方で、被告および弁護側は殺意を否認し傷害致死罪の適用を主張している点である。そして2つ目は検察側は被告の被害者に対する生前のわいせつ行為を認めている一方で、被告および弁護側は生前にわいせつ行為はしておらず、被害者の死後にわいせつ行為をしたと主張している点である。

本公判のポイント:本公判では2つ目の争点である「生前のわいせつ行為はあったのか」という点に焦点を当て、被害者の遺体の鑑定書を作成した検察側の証人である法医解剖医T医師の証人尋問が行われた。T医師は被害者の外陰部および肛門の写真をもとに出血などの生活反応(生体にのみ起こり、死体には決して発生しない皮下出血などの生体および組織の反応、変化)があったと鑑定書に記している。

開廷まで

ゴールデンウィークの中日ということもあり、当日は傍聴券を求め多くの人が抽選券交付所につめかけていた。私は番号1桁台の抽選券を13:30より前に貰い、13:45の抽選券配布締切までその場で整列、待機していた。配布前に交付所で並んでいた人数は2,30名ほどだったので「それほどの倍率にはならないな」と思っていたが、あれよあれよと傍聴希望者が列をなし、締切時刻間際には100名弱ほどの集団に膨れ上がっていた。感染防止対策として傍聴席が3席に1席程度の割合で間引かれていることを加味するとある程度の抽選倍率になることは避けられない情勢となってしまったが運よく当たりくじを手にすることが出来た。

本公判は合同庁舎でも最大級の広さを誇る104号法廷で行われた。法廷前で再度4列に整列し入場する。先頭集団として入場したため最前列の座席を確保することができた。既に裁判官、検察、弁護人、その他関係者は入廷、着席しており、我々一般傍聴人および報道記者の入場が済むと起立、一礼することなくあとは被告の入廷を待つのみとなった。

開廷

開廷は14:00の予定だったがやや遅れて刑務官2名と共に黒のスーツにノーネクタイの姿で被告が入廷し開廷。マスクをしているので詳しい表情をうかがうことは難しいが、髪型はやや髪が伸びた丸刈り、年齢に比べ少し幼い色白の顔立ちにやや紅潮した皮膚が印象的に映った。本公判では検察側の証人であるT医師の証人尋問が行われ、証人尋問中は被告は証言台に移動していたため、閉廷まで被告人の表情を見ること叶わなかった。

主尋問(検察側)

証人尋問は山口地方裁判所宇部支部とビデオリンク方式で行われた。左右の大型モニタにT医師の姿が映し出される。画面の向こうで起立、宣誓をしている姿を見るのはなんとも不思議な気分だ。まずは検察側が証拠として提出している解剖写真およびその拡大写真についての主尋問が行われた。検察側は被害者の外陰部および肛門に見られる5ヶ所の生活反応を伴う損傷を認めており、証人に対して解剖写真のどの部分がその損傷にあたるのか尋問した。

検察(以下、検)「後陰唇交連皮膚剥離部出血についてペイントソフトのブラシ機能で出血がどこにあるのか青色のブラシで囲ってください」
証人(以下、証)「このあたりです」(証人が書き終えると検察側の要請を受けた書記官が印刷し、印刷物を裁判官、弁護人、検察側に配布する)

以降、その他4ヶ所の損傷(後陰唇交連付近粘膜下出血、処女膜後部右側小出血部群、肛門開大、肛門間粘膜下出血)についても同様の作業が行われる。証人であるT医師はペンタブレットなどではなく、マウスを用いてペイントのブラシ機能を使用せざるを得ない状況であったため、時折「難しい」と呟いていた。なお解剖写真や証人の一連の作業風景に関しては大型モニタには表示されることはなく、傍聴人は証人の声を聞くことしかできなかった。続いて証人の経歴や経験、またそれらの知見をもとにした被害者の解剖所見についての尋問が行われた。

「証人はH18から西日本地域の損傷鑑定をしており、年2~30件の意見書、鑑定書の作成をしているがどのような鑑定をしているか」
「写真鑑定が多い。ただ子供の場合は病院での診察になることもある」
「作成した意見書、鑑定書のうち、膣、肛門の割合は」
「ここ最近は性虐待の鑑定が大半」
「組織検査はするか」
「生きている人は内容物は採取するが組織片はしない」
「証人は米国で性虐待、性暴力の鑑定の研修に参加したがそれは具体的にどのようなものか」
「当時日本ではそのような施設はなかったのでカリフォルニア州で2回研修に参加した。性虐待、性暴力を受けた性器にはどういう損傷があるか、裁判での証言の仕方などについて学んだ」
「証人は研修以外にも総合病院での勤務経験、虐待の裁判への参加経験、性暴力の書籍の執筆など多くの専門的な経験がある。先程のペイントソフトの囲みはそれらの経験を元にしたものか」
「はい」
「発赤があるからといって性虐待があったとは限らないのか」
「発赤は炎症していない、膿がない、赤みが限定的のときにひろく使われる言葉」
「細菌感染や皮膚病で発赤が出ることもある。今回のはどうか」
性感染症はおりものが出たり、腫れぼったい、全体的に赤みがあるといった特徴がある。本件は全体的な赤みの変化ではなく限定的である」
「弁護側曰く「写真鑑定では生活反応でできるものとそうでないものと判別ができない」というがどう思うか」
「写真でも確認できる」
「今回は法医学的な見地から証言したものか」
「はい」

検察側の主尋問が終了。裁判長は休憩を挟んだのち15:20から再開しようかと提案したが、証人が本公判のあとに予定があり、本公判は16:00までの予定でスケジュールを組んでいることを理由に休憩なしで続行することを提案したため、休憩なしで弁護側の反対尋問に行われることとなった。

反対尋問(弁護側)

続いて検察側の主尋問に続き、弁護側の反対尋問が行われた。

弁護士(以下、弁)「先生(証人)が参加したカリフォルニア州での研修の研修期間はどのくらいか」
「1週間。朝から晩まで」
「出席者は」
「全員アメリカ人。医師と看護師で30人ほど」
「裁判での証言の仕方とは具体的にどのようなものか」
「専門家以外の人にいかに医学的根拠を元に発言するかを学んだ」
「組織検査は生きている人から採取することはあるか」
「ない」
「死んでいる人は」
「皮膚はあるが外陰部はない」
「被害者の死体所見で「肛門11時発赤が弱い」と書いた記憶はあるか」
「はい」
「(同じ所見で)「性器の一部に認められる発赤が弱い」と書いた記憶はあるか」
「書いてあるのでそう」
「(検察側の証拠拡大写真を提示して)この写真はピントが合っているか」
「拡大で余計そう見えるだけで合っている」
「鑑定資料の写真は誰が撮ったものかご存知か」
「そこまではわかりません」
「どういう技術がある人が撮ったか知らないということか」
「(誰が撮ったかは知らないが)技術がある人が撮ったものと理解」
「一審と二審で示した損傷箇所は同じか」
「マウスで操作したのでアレだが同じ」
「(先程の主尋問で囲った写真と、一審で囲った同じ写真を提示して)この2枚を比較すると印をつけているところが違うのではないか」
「6時を挟んで5時~7時と証言している」
「今回は向かって左、一審は向かって右に印をつけている。どういうことか」
「識別している所だけを囲っている。特に大きな差はない」
「この写真はコルポスコープ、膣拡大鏡で撮影したものではないのか」
「異議。証人は撮影していない。どういう風に撮影した聞くことが間違い」
「証人は専門家だから聞くことは問題ない」
裁判長「質問の仕方を変えて」
「写真を見るにこれはコルポスコープを使った写真か」
「どういう意図で聞いているのか」
「端的に聞いている」
「通常の仕方で撮影したものだと理解」
「(「CQ427 性暴力を受けた女性への対応は?」『産婦人科 診療ガイドライン―婦人科外来編2020』公益社団法人日本産科婦人科学会公益社団法人日本産婦人科医会、2020を提示して)これは先生が作成に協力したものか」
「おそらく」
「表1、診察の手順については」
「記憶にない」
「(証人と意見の異なる意見書を書いた法医解剖医K医師他2名の医師の解剖実績数を挙げて)証人より他の先生の方が多い」
「手伝いを含めるとK医師と同じくらい。K医師以外の2人は指導医ではない」
「K医師の意見書には生活反応は認めらないと書かれている」
「(かなり強い口調で)認められないとは書かれていない」
「法医学の専門家でも意見が違うことがよくあるのでは」
「今回は外陰部の損傷。私のほうがよく知っている」
「(ブログ『宇部医大法医学准教授の日々奔走&ゆる〜いオーガニック生活』の記事を提示して)「医師でさえ所見を的確にとるのが困難な性虐待の外陰部の所見を法曹関係者に説明することはなかなか大変で(汗汗)...」これはどういうことか」
宇部医大は存在しない。私のブログであるとどう断定したのか」
「異議。何をおっしゃりたいのか関連性がない」
「本人としてやっているのはツイッターフェイスブックだけ」
「ではブログは」
「異議。こじつけ、誤導。質問自体不適切」
「本人として利用しているのがツイッターフェイスブックだから匿名として利用しているのはと聞いた。このブログは証人のブログか。はい、いいえで答えて」
「(はい、いいえで答えずに)書かれている内容へのコメントはできる。裁判で説明するのは大変。書いてある通り」
「今回3人(K医師他2名)と先生は意見が分かれたが同じことはあるか」
「私より生きている人、死んでいる人含め外陰部の知識と所見の経験のある人はいないと自負」
「3人の意見は法医学的にありえないのか」
「いいえごもっとも。ただ経験を積んでいないと外陰部(の鑑定)は難しい」
「これまで裁判に証人として出廷したことは」
「数十件」
「弁護側の依頼で証人になったことは」
「ない」
「証人は性暴力救援センター・大阪(SACHICO)の理事をしている。設立に関わったか」
「はい」
「(救援センターでは緊急電話相談として警察と連携していることから)警察との実務担当者会議に参加したことは」
「設立当初はあったが最近はない」
「(証人の大学院生時代の学位論文における警察官へのアンケート調査を提示して)100%の回答率、100名から回答を得ている。院生が100%の協力をどう得られる」
「指導教官の教授のご配慮」
裁判長「この質問は本件の判断に関わるか」
「はい」
裁判長「(事件の中身に関わる尋問との)バランスを考えて」
「中身の尋問は最初に終わっている」
「(性犯罪の無罪判決が相次いだ2019年に起こった)フラワーデモに参加したことがあるか」
「していない」
「(朝日新聞の記事を提示して)「T(証人)も声を上げる一人だ」と書いてある」
「異議。新聞記事を示してこの文章を聞いてどう思うか聞くことがおかしい。不適切」
「先生(証人)は(性犯罪の裁判で)無罪判決が出るのは悪いことと思っているか」
「双方が公的な場で意見が出されて多角的に判断される必要がある」
「(NHKニュースの本裁判の無期懲役判決のツイートを証人が一審の日にリツイートしたことについて)なぜリツイートしたのか」
「ひろく考えてほしいと思った」

ここで証人が「あと何分かかるのか。16:15か16:20には解放してほしい」と主張。弁護人が検察側と同じ尋問時間がないとフェアではないと主張し、裁判長も特に否定しなかったので反対尋問は続行することになった。

「このリツイートは単純リツイート(引用リツイートではない)でいいか」
「はい」
「単純リツイートは賛同の意を示す橋下徹・元大阪府知事の」
「異議。その質問は本件と関係ない」
裁判長「異議を認める」
「なぜリツイートしたか」
「ひろく考えてほしいと思った」
「これ(裁判)に出廷したとツイートしていないが」
「別段言う必要がない」
「(証人のツイートを提示して)「これまでで最遠方?の検察官や警察官の方々と面談...」とはどこか」
「沖縄か新潟」
「新潟の可能性は」
「わかりません。沖縄か新潟だと思う」
「(証人のツイートを提示して)「ただ今、Max とき乗車中… いざ、新潟へ…」のいざ新潟は「いざ鎌倉」を意図したものか」
「異議。いざ鎌倉ならなんなのか(かなり身を乗り出して強い口調で述べていた)」
GoogleとYahooで証人の名前で検索してもツイッターが出てこない」
「それはYahooなど業者に聞け」
「(はい、いいえで答えて)法曹関係者から心の目、心眼で見ていると指摘されたことはあるか」
「はい」

これで反対尋問が終了する。検察官はのべ10回弁護人の尋問に異議を唱えていた。またそれ以外にもビデオリンクで弁号証など証拠品を提示せず口頭だけで尋問する際には、それを特定せよと指摘されることも多々見受けられた。また序盤の尋問で弁護人に指摘されていた一審と二審の写真を囲んだ部分の違いについて検察官が証人に確認のため尋問していた。

「弁護側から違うと指摘されたが」
「いずれも5時から7時の範囲。マウスがうまく操作できなかった」
「いずれも同じ場所を言っているのか」
「そうです。かなり広い範囲に粘膜下出血があり、5時から7時が特にそうです」

検察側の確認の尋問が終わり、双方の証人尋問が一旦終了する。

質問(裁判官)

続いて右陪席の裁判官が証人に質問した。
右陪席(以下、右)「(K医師との意見の食い違いについて)K医師は「この程度は肉眼的に確実に出血と判断できない」としている」
「私は判断(できる)」
「K医師は判断できず、証人は判断できる。これはどういう経験の差か」
産婦人科の先生は主に思春期から成人を診察し子供は少ない。私をはじめ性虐待の専門家なら判断できる。経験とは数をきちっと見ること。例えば3歳の子供が男性器が入ったと当事者が言っても(その入ったことで発生するような)所見がないなど様々なケースを見る経験。(今回のは)赤みが出血かどうかが判断のポイント。細菌感染の場合は全体に均一に腫れたり、水っぽい、浮腫、膿などが見受けられる。今回は全体ではなく局所的。例えば爪などある程度の面積のものがあたったと考えられる」

裁判官の質問が終わると最期にもう一度検察官が証人に尋問した。

「(K医師の鑑定書を提示して)「鬱血か出血かの鑑別ができない」と書いている」
「窒息で今回と同じ所見が見られたことはない」

検察側の3度目の尋問が終わり、証人尋問は16:20頃に終了した。被告人は証言台から弁護側の前の長椅子に戻る。表情は入廷時と変わりないように見受けられた。最後に裁判長が次回の公判予定について取りまとめる。弁護側は被告が生前にわいせつ行為をしたのかについて、わからなかったと鑑定したK医師を証人として召喚することを主張した。これに対し検察側は「わからない人を証人に出すのは不必要」と主張したが裁判長はK医師の証人尋問を採用した。尋問の所要時間について裁判長から尋ねられると、弁護側は60分を要求し、検察側は30分を超えることはないと述べていた。次回の公判がK医師の証人尋問であることとその日付について裁判長から確認を促された被告は静かに頷いていた。

閉廷

検察側の法医解剖医であるT医師の証人尋問が無事終了し、第三回公判は閉廷した。我々一般傍聴人および報道記者らは起立、一礼し被告人がまだ廷内に留まっている内に法廷を後にした。

所感

事件発生当時は世間を震撼させたが、3年という月日が経過し、さらには同様の事件が発生しほとんど忘れ去られてしまった事件だが、個人的には深く記憶に残っている一件だったために今回傍聴できたことは良い機会であったと感じられる。逮捕時から同じく3年が経過し少し大人びたのかなと思っていたが実際に現れた被告は想像よりもずっと幼い顔立ちだった。髪型や色白であることがそれに拍車をかけているのかもしれないが凶悪そうな顔立ちにはとても思えなかった。一方で極度に緊張しているといったような様子もなく、程よく場慣れした緊張感にはどこか余裕のようなものも感じられた。一審の無期懲役判決が二審で死刑判決に入れ替わることは考えにくいことも影響しているのだろうか。本人の口から事件について語る被告人質問の期日はまだまだ先の予定だと思われるが、ぜひその時も機会があれば傍聴したいものである。

さて今回の公判の山場は弁護側の反対尋問だと思われる。弁護側は事件と関係のないような質問を繰り返し、時には検察側から異議を唱えられることもしばしばであった。今回証人として出廷したT医師はこういった事件において右に出るものがいないほどの手練れなのだろう。そういった意味では正攻法で証人の鑑定結果を崩すことは難しい。であるならば証人本人の資質を問うほうがまだ幾分容易いといったものなのだろう。鑑定結果はいったん横に置いて、警察や検察との連携の深さなどから証人の裁判における公正中立性に疑問を呈するといったやり方を選んだことは正しいように思われる。証人と異なる(被告人に有利な)鑑定をした医師はK医師を筆頭に3名いるわけで鑑定の質に不足はない。ただその質問内容は華麗に決まったと思えるものは乏しく、特に「いざ鎌倉」に関しては傍聴席から呆れた空気のようなものが漂っているように感じられたほどである。私自身吹き出してしまうところを必死に我慢していた。このような重大事件においてもツイッターの発言がここまで反対尋問の材料にされてしまうとは改めてツイッターの影響力に驚いてしまった。

今回は検察側に勝負ありと思われるような内容であったが、次回第四回公判では弁護側の証人としてT医師と異なる鑑定結果を示しているK医師の出廷が予定されている。客観的に納得のいく主尋問を展開することができるのか、あるいは検察側の反対尋問が華麗に決まるのか見ものである。閉廷前、検察側が反対尋問の時間について「30分もいらない」と自信があるような口ぶりで発言していたのも気になるところである。

2021/6/17に開かれた第四回控訴審の詳細はこちらから。
pregnant-boy.hatenablog.com